お前は知っているのか。
あの、異常な日々を。
「人生は一度だけだから楽しい」
そう、客が言っていた。
ゴルフのスコアに例えて、
さも誇らしげに。
イヤな客だ。
オレは「そうですね」そう嗤って。
また暗い感情に囚われた。
オレは二・三歳のころ、
軽い知恵遅れだと診断されたらしい。
それからあの母親のヒスが激しくなった。
そう、姉から訊いた。
だけどオレは気づいたら罵られていたから、
罵られるのが当然なのだと思っていた。
オレには姉が二人と、兄が二人いる。
でも、実際に一緒に住んでいたのは、
姉一人だけ。
絵に描いたような、ダメな家族。
オレも立派に血を引いている。
血を流しても。
どれだけ血を流しても。
きっと、根源に、この血が、、。
客が「人生は一度だけ」そういった時、
暗い感情と共に気づいたことがあった。
もしかしたらオレは、
リセットボタンを探していたんじゃないか。と。
人生のリセットボタン。
もしかするとあの歯車の夢では、
それを探していたのかも知れない。と。
そんなことに気づいた。
だから「人生は一度だけ」という、
そんなありふれた言葉に、
オレは憎しみすら抱いた。
あるはず無いよな。バカらしいよな。
きっとあの客にしてみれば、
もう一度やり直したいと、
そんなことばかり考えるオレは
とても滑稽に映るだろう。
ガキだと笑うだろう。
でもオレはきっと、
今もまだ、それを必死に探している。
イヤな客だと思ったのは。
きっと憧れたからだ。
ああやって明るく、
人生は一度だけだから楽しいと。
そんなことを言えるあの客が。
とても羨ましかったんだ。
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