蓋をしたはずだったのに、何かが溢れる。
死の匂いを感じさせるほどに朽ちた空気。
後戻りできない迷路のような日常。
それを受け止めるだけで精一杯だった。
時々、座り込んだまま動くのをヤメてしまいたくなる。
固まって動かなくなって、だんだん心臓も止まって。
泥人形みたいにゆっくりと崩れて壊れたいと願う。
こんな考えは自分の首を絞めていると解っているけど。
暗い考えはどうしても切り離せない。
「みんな孤独で、それなりの悩みを抱えてる」
「人は誰しも努力して幸せを掴み取るんだ」
本だったか、人だったか。どこか耳に残った言葉。
子供のころだったかな。先生に言われた気がする。
その言葉に対してオレも異論は無かった。
でもさ、闇は払えば払うほど散るんだよ。
受け入れれば受け入れるほど大きくなるんだ。
散ったモノで目の前が見えなくなって。
受け入れたモノがだんだんココロに広がって。
日に日に歪んでいくのが解るんだ。
変われると信じた。オレは愚かにも信じてたよ。
だけど環境は努力なんかじゃどうにもならなくて。
悠がいなくなった後は、さらにひどくなって。
ココロに蓋をして、溢れ出すモノを拒んだ。
一生懸命拒んだよ。
でも睦月がいなくなってからはずっと。
蓋からドクドクと、暗い何かが溢れている。
さっき父が、兄と家に入ってきた。
兄をこの家に置いてくれ、と。
あの父親が言っていた。
そもそもここは父親の家なのだから、
そんな言葉は必要ないのに。
それなのに兄のために頼む父親は、
オレにはすごく、みすぼらしく見えた。
きっと父親も歳を取ったんだ。
あんなことを言う父親じゃなかった。
昔と違う。記憶と、違う。
どう変わったのかはよく判らない。
ただ、どこか違う気がした。
昔だったらオレを追い出していた筈だ。
でも父親は、兄のために、頼んでいた。
この気持ちは、悔しいのかな。
兄は父親に気を使ってもらって。
オレは、そんなことは無かったから。
だから、悔しいのかな?
だから、みすぼらしいと思ったのか?
だんだんカネ廻りが悪くなる親戚たち。
見栄に取り付かれて、足を引っ張り合い、
どんどん暗いところへ堕ちてゆく。
きっと兄もそれに巻き込まれたんだろうな。
いつもキメていたのに、今はボロボロだね。
そういや、兄の名前はなんだったかな?
季節とか、風景の名前のはずだけど、
まったくもってオレには思い出せないよ。
ねぇ、貴方もオレと一緒で歪んでいるのかな?
オレより年上だし、今まで何を見てきたのかな?
そういや血が半分違うから義兄さんだったっけ?
義兄さん。義兄さん。あなたの目は虚ろだったよ。
オレと一緒で、もう全てを失ったって目をしてた。
死にたいって音が、貴方から訊こえてくる。
すごく嫌な音が、貴方から訊こえてくるんだよ。
闇がしだいに広がって。だんだん全てがおかしくなる。
闇が闇を呼んで。日に日に深く、広くなるんだ。
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